2025-09-25
「LSPで広がるキャリアと実践:ファシリテータたちの物語」 第3回
森本繁生さん「言語化の壁を越える「レゴ®シリアスプレイ®」の力」
LEGO® SERIOUS PLAY®(LSP)は、世界中で組織変革や教育の現場に導入されている、対話と創造のためのメソッドです。
この記事では、LSPファシリテータ養成トレーニングを修了した方々の実践と気づきを紹介します。彼らがどのように自分の仕事や人生にLSPを取り入れたのか—その生の声から、あなた自身の現場でのヒントや次の一歩を見つけていただければと思います。
「TOC 理論※を使えば、経営の課題は論理的に整理し、突破口を見つけられる」。長年そう信じて現場に向き合ってきた経営支援の専門家が、あるとき大きな壁に突き当たりました。
※TOC(Theory of Constraints)は、制約理論と訳され、システム全体のパフォーマンスを最⼤化するために、ボトルネック(制約)を特定し、それを最⼤限に活⽤することに焦点を当てた経営管理の枠組みです。
株式会社こきょうで 28 年間にわたり企業の経営改善に携わってきた 森本繁生さん。経営シミュレーションゲームや TOC 理論を駆使し、多くの企業の改革を支援してきました。しかしその実践の中で、これまでの「言語による論理構築」だけでは届かない領域があると強く感じ始めたのです。
言語化できない人たちとどう向き合うか
森本さんが直面していたのは、研修や会議の場で「言葉にできない」人たちが増えて
いるという現実でした。TOC 理論は「論理的に考え、論理的に表現する」ことを前提に成り立ちます。因果関係を図にし、対立の構造を整理し、打開策を導く――このプロセスは強力である一方、参加者が「自分の考えを言葉で外に出せる」ことが大前提です。
「TOC 理論は論理的に考え、言葉にして初めて使えるものです。でも現場に出ると、“考えはあるけれど言語化できない”“言葉にしようとすると止まってしまう”人が少なくない。これだと付箋も書けないし、成果物も形にならない。言葉を持てない人をどう支援すればいいか、強い課題意識を持つようになりました」
例えば新入社員研修の場で、若手が「何を言えばいいかわからない」と下を向いたまま時間だけが過ぎる。あるいは管理職会議で、暗黙の了解が多すぎて本音が出てこない。そんな状況が繰り返されていました。「言葉にできない=参加できない」という現場の空気に、森本さんは大きなもどかしさを感じていました。
レゴ®シリアスプレイ®との出会い
そんなときに出会ったのが「レゴ®シリアスプレイ®(LSP)」でした。
森本さんは、ブロックを使って自分の考えを形にするという手法に直感的な可能性を感じたといいます。
「ブロックを使うことで、言葉がなくても考えを形にできる。これなら“言葉にできない人”も参加できるのではないか――。そう思った瞬間、これまで抱えていた課題が一気に解けるような感覚になりました」
「手で考える」という逆転の体験
実際にトレーニングを受けてみると、その感覚は確信へと変わりました。LSP の基本ルールは、頭で考え込む前にブロックを手に取り、直感的にモデルをつくること。
「気がつくと手が勝手に動いていて、作品ができているんです。頭で正解を探そうとするのではなく、あとから自分で意味をつければいい。このプロセスには大きな安心感がありました。『自分が意味を与えればそれが正解になる』という感覚は、TOC 的な論理の世界では味わえなかったものでした」
これは、普段から「正しい答えを導く」ことを求められる経営支援の現場とはまったく異なる体験でした。間違いも正解もなく、ブロックに触れる手の動きが思考を先導していく。この「逆転の思考プロセス」は、森本さんにとってまさに目から鱗が落ちる体験でした。
驚きの合意形成スピード
さらに印象に残ったのは、参加者全員で「共有モデル」をつくるセッションでした。
「あっという間に共通の言葉が生まれ、全員で合意できてしまったんです。しかも、その言葉を二日間ずっと全員が覚えている。これはこれまでにない“腹落ち感”でした」従来の会議では「言葉の定義」が最大の障害になることが多々あります。同じ「顧客志向」という言葉を使っていても、人によってイメージがバラバラ。定義合わせに延々と時間がかかり、結局本質的な議論にたどり着けない――そんな経験は誰しもあるはずです。
しかし LSP では、モデルという視覚的で触れられる対象を共有することで、言葉の解像度が一気に上がります。モデルを指差しながら「これが私にとっての顧客志向です」と説明すれば、そのニュアンスが直感的に相手に伝わる。だから合意形成が速く、深いレベルで「わかり合える」。森本さんはそのスピード感に驚きを隠せませんでした。
信頼関係を生み出すプロセス
もうひとつの大きな発見は「信頼関係の生まれ方」でした。
「今までいろいろな講座や研修を受けてきましたが、ここまで濃密なチーム感を得られたのは初めてです。4 日間で築いた信頼は、その後もコミュニティで続いている。学んだこと以上に、人とのつながりそのものが大きな価値でした」
ブロックを通じて自己を表現し、相手の物語を真剣に聴き、また自分の物語を受け止めてもらう。この繰り返しが「言葉以上の信頼」を生み出していくことを体感したといいます。
これは単なるワークショップ以上のもの―「人間関係を根本から変えるプロセス」だと森本さんは語ります。実務への応用と手応え受講後、森本さんはさっそく自身の研修や経営支援の現場に LSP を取り入れ始めました。
「合意形成のスピードと深さが違います。単なるワークショップの一手法ではなく、経営改革の現場に直結する“実践的なツール”だと確信しました。今は、LSP をどう TOC理論と組み合わせていくかを模索しているところです」
「言葉にできない人が排除されない」「多様な視点が自然に出てくる」――これが LSPの最大の強みだと森本さんは実感しています。
これから挑戦したいこと
森本さんがこれから挑戦したいのは、「LSP と TOC の融合」です。TOC 理論の持つ論理性と、LSP の持つ直感的で創造的な力。この両者を組み合わせることで、経営改革の現場に新たな可能性を生み出せるのではないか――。
「TOC は頭で考える力、LSP は手で考える力。両方を組み合わせることで、これまで届かなかった領域に踏み込めると思います」森本さんは、そんな未来の可能性を描きながら、今も挑戦を続けています。
受講を検討している人へ
最後に、森本さんからこれから受講を検討している方へのメッセージを紹介します。
「私はもともと、TOC 理論という“言葉と論理”を軸にして活動してきました。でも、その限界を感じたからこそ LSP を学んでみようと思った。実際にやってみて、『こんなに手が動いてくれるんだ』『自分の中にまだこんなに表現できるものがあったんだ』と強く実感しました。もし今、“自分の思いをうまく言葉にできない”“メンバーの考えをもっと引き出したい”と感じているなら、LSP は必ず役立ちます。言葉にできなくても、ブロックを通じて考えが形になる。その体験をぜひ味わってほしいです」
森本さんが語るように、LSP は「言葉にできない想い」を形に変え、チームの共通理解へとつなげる力を持っています。論理で語ることに強みを持つ人も、言葉が苦手で表現を諦めていた人も、同じテーブルで対等に参加できる。そこにこそ、この手法の本質があります。
まとめ
論理を武器に経営支援を行ってきた森本繁生さん。
その彼が「言語化の壁」という大きな課題に向き合い、レゴ®シリアスプレイ®を学んだことで新しい道を切り拓きました。手で考え、モデルで語り、信頼を育む。それは単なるワークショップの一技法ではなく、人と組織の可能性を大きく広げる力です。
そして、森本さん自身が実感したように――
「言葉にできない人でも参加できる」「誰もが自分の想いを形にできる」。
そんな体験を求める人にとって、LSP は強力な選択肢となるはずです。
森本繁生さん 株式会社こきょう 代表取締役
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